うそ俳句
うそ俳句
野分して 風鈴の音 落ちにけり
1990年9月21日
遠き空 星の音低し くさむらに
1990年9月21日
板塀を 流れる 寒き己が影
1990年9月21日
白壁に 白日映えて 遠い午後
1990年9月24日
車だけが 追い越していく 白い路
1990年9月24日
滴落ちて みどりをこぼす 低い枝
1990年9月24日
鮮やかに 雲はきらら(雲母)と 空にあり
1990年10月9日
暗闇に 匂いて甘し 金木犀
1990年10月9日
雨匂い 夜明けに沈む 葡萄棚
1990年10月9日
空っぽの なかを駆けてく 枯れ落ち葉
1990年10月20日
誰かある 街灯の下の 咳一つ
1990年10月20日
人気無き 教室の窓の 小枝かな
1990年10月20日
暗き納屋 暖かき窓は 高かりし
1990年10月20日
日溜まりと 顔すり付ける 君の膝
1990年10月20日
つかれきて ぶどう酒の瓶 くちづける
1990年10月20日
板壁と 古き窓枠 灯がともる
1990年11月3日
柚湯でて 窓から身体 さしだせり
1990年11月3日
なつかしき 雨上がりの朝 朽ち葉の香
1990年12月3日
鈴掛けの 大きな落ち葉 日にかざす
1990年12月3日
寒雷に 底から響く 銀杏かな
1990年12月11日
寒時雨 風上から 走り抜け
1990年12月11日
枯れ草は 霧にまぎれて 幽かなり
1990年12月11日
長雨して 壁にしみいる 玄さかな
1991年9月23日
水音に かすかに知れる 夜半の雨
1991年9月23日
厳しき戸 分けて漏れ入る 虫の声
1991年9月23日
水溜に つま先を入れ 揺らめかす
1991年9月23日
ここから「かえってきた!うそ俳句」
春炬燵 別れ話と ぬるいお茶
1997年3月1日
風つよし 浅い昼寝の 覚める先
1997年3月1日
花を得て 去年の花瓶に 水を張る
1997年3月1日
白梅と きそう白無垢 紅ひとつ
1997年3月3日
白梅を のせて冷たし 古き家
1997年3月3日
長雨して 溝(どぶ)がまとうや 桜花
1997年4月6日
古びても 自転車軽し 若芽吹
1997年4月6日
風長閑 頼りなき夢を 並べけり
1997年4月6日
恵み雨 枯花鉢にも 名無し草
1997年4月6日
そら歩き 忘れ菜花に 里を知り
1997年4月11日
生きるため 染めし我が手は 赤き暗黒
1997年4月15日
月凍え 星吹き寄せる 夜半嵐
1997年4月15日
明けの雨 木々と息吹を 共にせり
1997年4月22日
湧きあがる 大楠花振り 風仰ぐ
1997年4月22日
きぬくもが 空をわたるや 月涼し
1997年8月17日
虫と息 ひそめて探す 宵の街音
1997年8月17日
鍵盤に 触れて冷たし 秋の曲
1997年8月17日
酒杯の 氷もてあそぶ 秘め話
1997年8月17日
去り人よ 石もて打つな 廃園の蓮
1997年8月17日
茜空 紫雲に 弓月船
1998年6月20日
かろかろと 水音転がる はたの堀
1998年6月20日
雑草の 白き根 黒土握り締め
1998年6月20日
汗ぬぐう 指先残る 草の息
1998年6月20日
白田 秀彰 (Shirata Hideaki)
法政大学 社会学部 助教授
(Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences)
法政大学 多摩キャンパス 社会学部棟 917号室 (内線 2450)
e-mail: shirata1992@mercury.ne.jp