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1 法律学用語の「情報」
1.1 はじめに情報の定義(内包)が曖昧なことを原因として、「情報」という用語の指す外延もまた曖昧だ。質量であるもの以外を情報と呼ぶのなら、具体的な器物が毀損によって本来の形質を失うことも情報が破壊されたと呼ぶことさえできる。ここ10年間ほどの高度情報社会到来の掛け声と共に、「情報」という用語の守備範囲は拡大された。法律学の世界においてもそれまでは別の呼び方で呼ばれていたものがにわかに「情報」と呼ばれるようになった。そこには何らかの必然性があるのだろうか。それとも単なる流行なのか。また、法律学の世界では「情報」という概念で括られているものが、他の領域では違った名称を与えられているかもしれない。 「情報と民事責任研究会」の研究対象として「情報」を考える時、「情報」という言葉が指示しているものが何なのかをある程度明確にしておく必要がある。もちろん調査の対象とすることのできたものは少なく、社会科学全般で定義が不明確な「情報」という用語の定義を本節で確定することなど到底不可能だ。そこで、おおよその傾向を示すことを目的とする。
1.2 調査の方法と対象法律学の世界で使用される文献は厖大で、これをくまなく走査することは困難だ。そこで調査の対象をはじめに限定することにした。最初に、法令上の「情報」という用語の使われ方を調査するために「日本法令」において法令名として「情報」の語を含んでいるものを抽出した。ついで、「情報通信六法」に含まれている法令の中で「情報」が使われている部分を抽出した。一方、実際の事件処理の部分で「情報」という用語がどのように使われてるのかを調査するために、「CD-ROM版 判例マスター 93年度版」を利用し、「情報」という検索語で抽出されたものを参考にし、特に高等裁判所および最高裁判所で扱われている事件については、「判例タイムズ」「判例時報」等を利用して全文を参照した。「情報」という用語の類縁あるいは外延に含まれると考えられるプログラム・データ・ソフトウェアという用語についての検索は行っていない。これらの三語は法律学上の用語としてよりも技術用語としての定義に主導権があると判断したからである。むしろこれらの三語と法律学上の「情報」がどのように関係するのかを明らかにするために、技術的な定義との法律学上の用語の関係を明らかにしたい。 [*] 「情報」という用語の一般的定義 1.3 法令上の用語としての「情報」はじめに「情報」という用語を法令名に含む法令を列挙する。(順番はJISコード順)
情報圏(官制圏を指定されていない飛行場のうち運輸大臣が告示で指定するもの及びその付近の上空の空域であつて、飛行場およびその上空における航空交通の安全のために運輸大臣が告示で指定するものをいう。...)ここで「情報」という言葉はどうして使われているのだろうか。「上空の空域であつて」とされていことから、具体的に示しているものは一定の空間である。「電波法施行規則」第四九条の四および第五一条を参照すると次のように規定されている。 「ATCRBS」とは、地表の定点において、航空機の位置、識別、高度その他の情報を取得し、他の航空機との衝突を防止するための情報を自動的に表示するものをいう。これらのことから情報圏とは、航空機が自機の位置・方向・速度および飛行場の天候など、離着陸に必要な情報を獲得するための設備が効力を及ぼす空間のことを示していると考えられる。その航空機が軍用機であれば、これらの情報は当然に「軍事情報」の一部である。「情報」という用語が本来 軍事用語であったことを考えれば、かつて軍事利用と強く結び付いていた航空の世界で、「情報」の語がこのように使われることは自然である。従ってここでの「情報」という用語は明治以来の伝統的な用法にもっとも近い例だということができる。 次に、現代的な「情報」の意味について考察する。まず、2.の「情報処理」という単語に含まれた形で使用されている例である。 「情報処理の促進に関する法律」の第一章 総則 第一条で次のように目的が示されている。 この法律は、電子計算機の高度利用及びプログラムの開発を促進し、並びに情報処理サービス業等の育成のための措置を講ずる事などによつて、情報化社会の要請にこたえ、もつて国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与する事を目的とする。ここで使われている「情報」では伝統的な軍事用語としての「情報」ではなく、明らかに電子計算機処理で用いられている記号列という現代的でかつ限定された意味を付与されている。このことは、第二条で示されている「情報処理」に関する一連の定義でも明らかになる。 (一)この法律において、「情報処理」とは、電子計算機(計数型のものに限る。以下同じ。)を使用して、情報につき計算、検索その他これらに類する処理を行う事をいう。第一項で用いられている「計数型」とは、現在のデジタル式コンピュータの主流であるフォン・ノイマン型コンピュータ [1] を指していると思われる。現在では技術が革新され、ニューラル・ネットワーク型コンピュータやファジー推論型コンピュータなどがあるがこれらがこの計数型という用語の視野に入っているのか否かは明らかでない。 ここでは、「情報につき、計算、検索その他これらに類する処理」とあり、処理の対象となる情報とは何かが定義されていない。計算、検索の対象となる情報とはデジタル信号の記号列であり、技術の進歩と共にデジタル信号で処理が可能な対象は大きく広がっている。 従来、数値や文字列が主たる内容だった情報処理の世界でも音声や画像などを取り扱うようになっている。このように考えれば、ここでの「情報」とはデジタル変換可能なあらゆる記号列ということになるだろうか。 このように考えるならば、これらはデータのことを指すということができるだろう。そもそも情報処理に対応する言葉は``data processing''であり、``information processing''とは通常いわない。 そこで、第二項を見てみると、「プログラム」が独立して定義されている。第一項で情報が情報処理の対象であったのに対して、プログラムは情報処理を遂行するための命令であるとされている。それではプログラムと情報(データ)は対立した概念なのだろうか。 プログラムもまた当然にコンピュータ処理される記号列であり、中央演算処理装置に組みこまれて実行されるまでは、その他のデータと何ら性質的に変わるところがない。当然にプログラムも情報処理の対象として処理されるのである。従って、プログラムはデータという意味集合の部分集合であり、潜在的に他の情報を処理する能力を持っているというように考えることが適当だろう。 プログラムやデータと関連してソフトウェアという用語が第三項で登場している。ソフトウェアの定義として通用していると思われるのが次のようなものである。 (ソフトウェアの)中心はプログラムであるが、プログラムだけがソフトウェアと言うわけではなく、その川上あるいは川下にあるシステムの設計書、フローチャート、ユーザーズマニュアルなどもソフトウェアに含まれる。ソフトウェアとはこれらを総合した抽象的な概念である。換言するならば、ソフトウェアとは、一定の作業をコンピューターに行わせるためにプログラムを作成し実行させるためのシステムということもできよう。[中山88]ここでの定義によれば、ソフトウェアとはプログラム・データに加えて、これらの周辺を取りまく様々な知識を含むものであり、中山教授は「システム」という言葉を当てている。このように考えれば、「情報処理」でいうところの「情報」よりも概念的には広くなり、ここの文脈ではソフトウェアとは「情報処理」に必要なすべての知識という概念集合と近づくとおもわれる。 一方、4.の「情報処理技術者試験規則」において、「情報処理システム」として「情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系をいう。」とされている。こちらは先のソフトウェアと対となる概念であるハードウェアを包含して定義されているので、ここでの「システム」とは中山教授の「システム」よりも広い概念集合であるといえる。 このことは、3.の「情報処理サービス企業など台帳に関する規則」にも現れており、第一章 総則 第二条 二項で、 この規則において「システムサービス企業」とは相手方との間に締結した契約に基づき、一の情報処理システムにつき、その設計、プログラムの作成、試験、運用の準備及び保守のすべてを行う役務を提供する事業(以下「システムサービス事業」という。)を営む者をいう。「システム+サービス」という言葉で、ハードウェアの製造を除く情報処理システムの全般に関わるさまざまな知識を提供し、これを遂行する役務を規定している。 1.3.1 通信と「情報」さらに、情報が伝達される局面である通信の分野で「情報」という用語がどのように使われているのか見てみる。 「情報通信六法」に収録されている通信関連の告示のうち、最初に「情報」という用語が登場するのは昭和59年のことである。「パーソナル・コンピュータ通信装置推奨通信方式(昭和59年12月26日号外 郵政省告示第971号)」の定義においてであり、次のように規定されている。第二 定義 1 この通信方式において「パーソナル・コンピュータ通信装置」とは、電子通信回線を使用し、パーソナル・コンピュータ等の超小型コンピュータの処理し得る情報を、誤り制御方式を用いて送受信するための装置をいう。やはりコンピュータが処理する対象として「情報」が捉えられている。それでは、これまでの法令ではどのような用語が用いられていたのだろうか。通信に関する基本的な法律である「有線電気通信法」は昭和28年に公布されているがその中では、 第二条 この法律において「有線電気通信」とは、送信の場所と受信の場所との間の線条その他の導体を利用して、電磁的方式により、符号、音響または影像を送り、伝え、又は受け取ることをいう。とされており、具体的に「符号、音響または影像」と規定されている。 また、文字をデジタル符号に変換して送信するという、現代的な目から見れば「情報」を扱っているものだと思われるファクシミリの規格についての一連の告示を見てみると、興味深いことに気がつく。これらは「ファクシミリグループ二型装置推奨通信方式(昭和54年10月6日 郵政省告示第645号)」に始まり、四型(昭和60年3月2日号外 郵政省告示第197号)までの三つである。 (二型) 第二 定義 一 この通信方式において「ファクシミリグループ二型装置」とは、電話型回線を使用し、.... の原稿を約三分間で伝送できる文書伝送用ファクシミリ装置をいう。これらのファクシミリにおいては基本原理は変更がなかったはずであるが、それぞれの表現に微妙な変化が見られる。二型、三型においては「原稿を...伝送」するとし、伝送されるものがあくまでも具体的な原稿を指していたのに対して、四型では「符号化」した文書を「送信」するものと定義されている。明らかに59年の「コンピュータ通信」の影響が見られる。 さらに、これが平成2年になると次のような定義の仕方に変わってくる。 オブジェクト識別子に係る推奨通信方式 平成2年12月6日 郵政省告示729号この表現では「情報オブジェクト」というものがいかなるものかは理解できないが、「情報」という用語が盛んに使われていることに気がつくだろう。 このような変化は、昭和60年代を境に通信技術と電子計算機技術が融合したことに由来する。かつて通信はすべてアナログ方式であり、電話の交換機は数多くの電気的なリレースイッチが詰まったスイッチ・ボックスだった。これが現在では実質的には大型コンピュータと何ら変わることのないデジタル交換機に置き代えられている。また、通信回線もデジタルとなり、現在では通信技術と電子計算機技術は一体のものとして捉えなくてはならない。 やはりここでも電子計算機の応用分野の広がりが「情報」の語の使用領域をひろげたのである。 1.3.2 小括以上のことから、次のように整理することができるだろう。
1.3.3 「情報」の語義の展開についてそれでは本来軍事用語であったはずの「情報」がこういった一般的な情報処理の概念にも使用されるようになった理由は何だろうか。「情報という用語の史的考察」に詳細に紹介されているが、クロード・シャノン [2] の``information theory''の訳語として「情報理論」が当てられたのが始まりとされている [長山]。彼が、どうして``information''という用語を採用したのかは明らかでないが、次のような事実が関係しているかもしれない。 シャノンが理論の対象としたスイッチ回路の大きな発達には軍事的な理由が介在している。世界最初のデジタル・コンピュータが登場してくる背景には、ドイツ軍の暗号解読のための特殊な計算装置を開発した英国のアラン・チューリングのグループ、原子爆弾の製造につながる大量の計算に直面したロスアラモスのジョン・フォン・ノイマンのグループ、高射砲をサポートする方法を検討していたノーバート・ウィーナーが関与していたという極めて軍事的な動機があった。そして最初のコンピュータの任務は陸軍の弾道計算だったのである。すなわち、最初のコンピュータは伝統的軍事用語としての情報(information) を処理したのである。 この後、コンピュータの応用分野は民生を含めて大きく広がり、もはや軍事情報だけを処理する機械ではなくなったが、「情報を処理する機械」という概念が残り、逆にコンピュータで処理されるものが「情報である」という概念の逆転がおこったのではないだろうか。このように考えれば、「情報」(information)の語義の発展が連続していることになる。1.4 情報の内容についてそれでは、情報というものの中身は何なのだろうか。第[Jump!] 節で述べたようにデジタル信号に変換することのできるすべての記号列というような説明では不十分であろう。 第[Jump!] 節で掲げた「電子計算機の設置に係る電子計算機利用高度化計画」では、電子計算機の発達とその高度利用による情報化は、経済社会の種々の活動に必要な情報の利用を高度かつ容易にし知的創造活動を支援すること等により、国民経済の健全かつ安定的な発展の基盤となり、ゆとりある豊かな国民生活の実現に資するとともに、国際間での情報の交流などを通じて時間、空間、言語などの制約を超えた相互理解の一助となるものである。とうたわれ、情報化と電子計算機の関係を一体のものとして捉えつつ、「情報」の含む内容が経済社会の活動に必要なもの、国際間での相互理解のためのものであると極めて広く捉えている。そして、「文字、音声、図形、画像等の多様な形態の情報の通信を効率よく行うため」とし、「情報」が必ずしもデジタル変換できる形態のものに限られないことを暗示している。さらに、「知識情報処理」という言葉で、「自然言語解釈、自動翻訳などの情報処理....推論、学習などの知識情報処理を行うため」と、「知識」と表現されるものも視野に入れている。この例はあまりに非限定的なものであり、「情報」という用語の内容に注意して書かれたとは考えにくいが、情報通信システムの高度化に伴い、「情報」の示す内容がますます広がって行くことが示されているといえる。 1.5 判例上の用語としての「情報」それでは、実際の事件処理の現場である裁判所では「情報」という用語はどのように使われているのだろうか。外の世界との接触が大きいだけに、社会全体で曖昧に使われている「情報」の用法に影響されて、法令上の意味とはまた異なった使われ方がされていることが予想される。「CD-ROM版 判例マスター 93年度版」で「情報」という検索語で抽出されたのは93件(同一事件の控訴も含む)であり、93件のうち、高等裁判所以上で審理されたものは26件である。また、93件の約1/4(26件)にあたるものが、情報(公文書)公開条例に関する訴訟であった。1.5.1 行政事件の「情報」自治体が制定する情報(公文書)公開条例はその名称を「情報公開条例」とするものと「公文書公開条例」とするものに大別されうる。両者の条例の対象となる情報の内容にそれほど違いがあるわけでなく、また、「情報公開条例」という名称を持つからといって、「公文書公開条例」よりも広い範囲を対象としているわけではない。むしろ対象の広さは自治体によって様々で、最低限「公文書(職務上作成された文書及び図面、これらを撮影したマイクロフィルム)」を含み、これ以外に磁気テープ、磁気ディスク、写真、音声テープ、録画テープ等を含むか否かということになる。これらのことから、自治体で理解されている「情報」は、役所内部で保有されている公文書その他の記録媒体に記録されている内容を括る上位概念として捉えられているようだ。そして情報公開訴訟で問題となっている情報とは「公文書」のことである。 それまで公文書と呼ばれていたものが何故に「行政情報」という上位概念に含まれるようになったのだろうか。一つの原因として役所内部の事務に電子計算機が導入されるようになったことが挙げられるだろう。大量の住民データを管理する方法として電子計算機は一般的に用いられており、住民基本台帳などの基本的な公文書も実際にはデジタルデータとして記録・処理されている。この役所内部での情報化の進展と共にそれまでの「公文書」概念からより幅広く「行政情報」概念が形成されたのではないだろうか。 情報公開に関連して「個人情報」という単語で現れる「情報」がある [3]。これについては東京高等裁判所平成3年5月31日の判決 [4] の判決理由の中で個人情報について言及されている箇所がある。本号は前記のような精神を受け、個人のプライバシー保護を枢要な制定趣旨とすることは明らかであるが、その文言からすると、明確にプライバシーと認められるものに限る趣旨ではなく、プライバシーであるか否かが不明確なものをも含めた個人に関する情報と解されるのであるから、その中には、広く、思想、宗教、意識、趣味等に関する情報、心身の状況、体力、健康などに関する情報、資格、犯罪歴、学歴などに関する情報、職業、交際関係、生活記録などに関する情報、財産の状況、所得等に関する情報など、個人に関する全ての情報が含まれる。ここで、「情報」が持つ意味集合は急激な拡大を示すことになる。この文面では「個人に関するすべての」というように示されている。この用法はさまざまな様態の記録を包括する上位概念としての「情報」としてのものであり、「行政情報」という単語での使われ方とほぼ同一であると理解される。 1.5.2 民事事件の「情報」このような幅広い意味で使われている「情報」には他に、先物取引に関する仙台高等裁判所秋田支部平成2年11月26日判決 [5] があり、そこでは、....その反面、諸々の社会的、経済的、気象的 時には政治的要因などにより絶えず変動する商品相場の動向を的確に把握するのは専門的にそれに関する情報の収集や分析に従事するものにとってさえも容易ではないのが通常である....と、単に「記録」にとどまらず、あらゆる「知らせ」を含むもっとも広い意味で「情報」が使われている。また、競馬の馬券購入情報に関する東京高等裁判所昭和57年 8月31年判決 [6] では、 同人の馬券購入に資するため事前の電話によりしばしば自己の騎乗予定の競争馬の体調並びにその勝敗の予測等について情報を提供し、.... ことに同年一〇月には佐藤において被告人からえた情報をもとに購入した馬券が的中して利益を得、同人からその謝礼として現金二〇万円の交付を受けたこともあること、....というように使用され、ここでも「情報」という用語は極めて曖昧かつ一般的な意味を与えられている。例えばこの事件においてことさらに「情報」という用語を用いる必要はなく、「報告」「連絡」を用いても何の問題もないと思われる。 同様な例としては、土地売買の仲介業務に関する東京高等裁判所平成3年5月9日判決 [7] があり、 本件土地の売買を仲介する旨の週刊住宅情報掲載の原稿を送付した... 被控訴人の送付した原稿に基づき、...本件土地を... 被控訴人会社が仲介する旨の情報が掲載された。というように、ここでも「情報」が使われているが、これも「広告」といえば済むことである。後者の場合、「週刊住宅情報」という雑誌の誌名に影響されたとも考えられるが「情報」という用語が安易に多用されている傾向がうかがえる。 1.5.3 刑事事件の「情報」社会とのつながりが深い民事事件に比較して、厳密な概念の把握が要求される刑事事件において「情報」という用語はどのように使用されているのだろうか。 興味深いことに、刑事事件の分野では明治以来の伝統的な「情報」の用法が守られているのである。例えば、警察官による共産党幹部の盗聴に関する東京高等裁判所 昭和63年 8月 3日決定 [8] では、日本共産党関係の情報を含む警備情報の収集に関する職務を担当していたものであるところ、同党関係の情報を得るため、職務として、他の警察官と共謀のうえ、.... ダイヤル式電話機による通話を盗聴しようと企てた.....また、横田基地の米軍情報スパイに関する東京高等裁判所 昭和63年12月20日 判決 [9] では、 本件テクニカル・オーダーは、米空軍が現に使用する航空機や機上搭載器材等の整備、点検、補修、操作等のため必要不可欠なものであり、しかも、機密指定区分外のものとはいえ、相応の情報価値を備えているため、公用に限って使用が許されるに過ぎず、その配付も、一部の例外を除き、米国政府機関に限られ、航空基地外への持ち出しが禁じられるなど取り扱い注意の措置がとられているものであることなどが認められるから、本件テクニカル・オーダーが窃盗罪の対象として刑法の保護に値することは明らかである。....これらの事件では、後者が「情報」という用語を避けて「資料」と表現できるが、前者についてはおそらく「情報」以外に言いようがないと思われる。また、後者にしても対象が軍事技術なのであるから、ここで「情報」を用いることは少なくとも昭和20年代以前の感覚としては自然なことといえる。 また、現代的な事件についても使用例がある。電磁的記録であるテレホンカードの有価証券性を争った最高裁判所第三小法廷 平成 3年 4月 5日決定[10] である。 ....テレホンカードについては、その発行時の通話可能度数及び残通話可能度数を示す度数情報並びに当該テレホンカードが発行者により真正に発行されたものであることを示す発行情報は、磁気情報として電磁的方法により記録されており、券面上に記載されている発行時の通話可能度数及び発行者以外の右情報は、券面上の記載からは知り得ないが、....ここでの使われ方は「情報」を「データ」と置き代えられることから、第 [Jump!] 節で述べた法令上の用法と近いものであるということができる。 1.6 結論ここまで法律学の対象となる各分野にわたって「情報」という用語の使われ方を見てきたが、法令上、判例上、またその個別の分野毎に違った意味で用いられていることが明らかになった。そこで、第[Jump!] 節のくり返しにもなるが、全体的にまとめる。
References
Note
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白田 秀彰 (Shirata Hideaki) 法政大学 社会学部 助教授 (Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences) 法政大学 多摩キャンパス 社会学部棟 917号室 (内線 2450) e-mail: shirata1992@mercury.ne.jp |