Web 上で公開していた結婚式の写真を無断で公開されたため、その事実を示すために、逆にその写真を無断掲載した頁を Web 上で逆公開した、という今回の事件において、私なりの意見を述べさせて頂きます。いずれにしても小学館から詫びが入って、当事者が納得したならば、もはや問題は解決していることが話の前提になっていることを忘れないよう。 著作権法 第 5 款 (30─50 条) に、著作権を制限する(すなわち、無断複写を認める)さまざまな条件が述べられています。 まず、最初の小学館側の写真の無断掲載についてですが、Web 上で公開したら出版において直ちに自由に利用して良いというのは、おかしな話です。というのは、著作権は支分権の束として存在しており、ある作品の新聞上での掲載許可がただちに出版許可にならず、またラジオやテレビでの放送については、またそれぞれに権利交渉が行われています。ということは、Web と当該小学館の雑誌が同一の媒体であると考えられないかぎり、権利者は別個に使用許諾をあたえる立場にあると考えられます。 アメリカでは、出版社が雑誌の内容を Web で公開していることについて、執筆者たちが、雑誌と Web は別の購読者層を目的とした別個の媒体であることを理由に、新たに出版社が使用料を執筆者に支払うように裁判を起こしたと聞いています。仮に、Web と雑誌が同じ媒体であるという判決がでれば、Web 上で公開した段階で、雑誌への掲載を許諾する権利を喪失したものと看做されるかもしれませんが、少なくとも、注意深い出版社であるならば、掲載許諾を得るべきだったでしょう。 それ以上に問題になるのが、それが「全くの私人」の結婚式の写真であったということです。私は、小学館の無断掲載については、それは「肖像権・人格権の侵害」がもっとも大きな問題だと考えます。加えて、その写真の取り上げかたが「結婚式の写真を Web に出すなんてなんてのろけた夫婦だ」というような批評を目的としているならば、名誉毀損に該当する要素もあるかと思います。さらに、公の関心となる事件や事実の報道の目的で引用されていないわけですから、小学館が「報道目的」を理由にする論拠は弱くなります。 さて、では、この自分の結婚式の写真が無断掲載されていることに抗議する目的でその該当頁をそのまま公開するという行為についてです。
> 第 32 条(引用)公表された著作物は、引用して利用することができる。この 私は、この事件が newsgroup で取り上げられるようになって、実際に Web に掲載された雑誌の該当頁を Web 上で見ました。こうした自分の権利が侵害された事実を公知することは、言論の自由の重要な目的です。その意味で著作権法 32 条に規定された「報道、批評、研究その他の引用」は、必ずしも報道機関、批評家、研究者のみの職業的特権と考えるべきではないでしょう。だから、自分の権利が侵害された事実について、公知する目的ならば何ら問題なく「引用」に該当するとおもいます。 次に、「引用」の量についてです。ここで問題となっている事件について判断するためには、具体的な事実を知る必要があります。確かに、該当の雑誌の該当巻の該当頁を明示するだけでも良いかもしれませんが、それでは、その記事を持たない第三者は、いずれの主張が妥当なものかを判断する材料に欠くことになります。自分の権利が侵害された旨で他者を批判するならば、問題となっている権利侵害についての事実を公正に提示するのも、批判者の「責任」です。悪意に解釈すれば、第三者が事実を知らないことを味方にして「いいがかり」を正当化している可能性もあるからです。 したがって「公正な批判」を行うためには、問題となっている頁を、その場で、できるだけ正確に表示する必要があるでしょう。すなわち、権利を侵害されたと主張する側が、適当に問題箇所を抽出して指摘するよりも(恣意が働く余地がある)、問題の頁をそのまま掲げるほうが「公正」を確保することになるでしょう。単に写真が無断掲載されたということだけではなく、どのような文脈で無断掲載されたかを知ることも第三者には重要な判断材料となります。 以上の論評は、この事件に関してのみについての言及であり、同種の事件について一般的に述べたものではないことを強調しておきます。
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白田 秀彰 (Shirata Hideaki) 法政大学 社会学部 助教授 (Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences) 法政大学 多摩キャンパス 社会学部棟 917号室 (内線 2450) e-mail: shirata1992@mercury.ne.jp |