言論の自由に関するコメント Freedom of Information and Privacy

第14章・情報テクノロジーの進展と法的課題

6. サイバースペースと言論の自由

...言論の自由"the freedom of speech, or of the press"の概念は長い歴史と複雑な背景を持っているが、ここでは、2つの歴史的事実と現代のネットワークの状況の共通点を指摘したい。

言論の自由はなんらかの理想がもとになって実現されたというよりも、実際には、出版統制や言論統制を行うことが困難になって後、正当化されたということである。まず、アメリカ法の母国であるイギリスでは、1476年の印刷術の導入以来、長い期間にわたって検閲制度と出版統制を行ってきた。この検閲制度や出版統制が崩壊した理由は、クロムウェルによる共和制期(1642--1660)以降、違法出版の取締が実質的にできなくなったからである。また、アメリカでも、宗主国イギリスからの独立前後の不安定な時期に言論統制がまったくできなくなり、その結果として生み出された活発な言論状況が、民主的に運営される政治形態の不可欠の基礎条件として肯定されたことが基礎となっていることが指摘されている。現在、民主政体に不可欠な要素と考えられている言論の自由は、脱法行為から生み出されてきたとも言えるのである。印刷機による言論状況の変化も重要だったが、もしわれわれの先達が従順に法を守る人々であったならば、今でもわれわれは王と教会の支配のもとにあったということができるだろう。

それゆえに、「権利章典は、その保護が犯罪者にとってもまた有利となることを承知の上ですべての市民に保護を与えることを選択している」のである。このことにわれわれ外国人は注意しなければならない。ネットワーク技術という新しい通信状況を基礎に、さまざまな違法・脱法行為が行われ、現在「無法地帯」とまでいわれているサイバースペースであるが、それらの行為のいくつかは、ネットワーク技術そのものに内在する合理性に基づいたものかもしれない。そうであるならば、それは新しい価値の萌芽となるものなのである。

p.422 白田秀彰執筆部分より抜粋

白田 秀彰 (Shirata Hideaki)
法政大学 社会学部 助教授
(Assistant Professor of Hosei Univ. Faculty of Social Sciences)
法政大学 多摩キャンパス 社会学部棟 917号室 (内線 2450)
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